海外へ赴く母親は読むべし!オーストラリアを舞台にした小説 Masatoは心の道しるべ
海外で家族での生活を営むってどういった感じ? これは誰しも思った事がある事柄ではないでしょうか。
海外で生活しようと考えている若者なら、もしかしてその国で結婚して家族を持つ事も考えられます。そして海外赴任する家族であれば、奥さんと子供たちは見知らぬ土地へ、好むと好まざると渡ってゆく事になります。
特に母親という立場から見た海外での生活、その実際を力まずにありのままを表現している小説に出会いました。
今回はそんな小説のご紹介です。
主人公は小学5年生の真人くん
今回ご紹介するのは小説『Masato』。著者は岩城けい。ウィキペディアによれば岩城さんはビクトリア州在住。どうりで小説のリアル感がヒシヒシと伝わって来るわけです。
岩城さんはデビュー作品「さようなら、オレンジ」で太宰治賞と大江健三郎賞のダブル受賞。それに続いての作品がこの小説。
あらすじは、父親の仕事の関係でオーストラリアへと駐在することになった家族。この小説の主人公は真人と言う小学5年生の少年。言葉もママならないまま現地の小学校へ編入し、いじめっ子にからからわれるも暴力以外対抗する手立てがない中、大好きなサッカーを通して友達や自分の居場所を見つけ、危うさがありつつも、少年の成長とたくましさが綴られています。
オーストラリアを生で感じさせるストーリー
この小説ではオーストラリアで頻繁に出てくる食べ物や生活様式がこれでもかとばかりに出てきます。リアリティーが増幅している分、各単語の説明がなされていません。なのでここで僅かですが言葉をご紹介。
- マグパイ – オーストラリアに住むカラスに似た白黒の鳥(上の画像)
- トマトソース - ケチャップの事。
- サワーワーム - すっぱい粉がまぶしてあるミミズの形のグミ
- フレド・チョコレート - カエルのキャラの形をしたチョコ
この他、たくさん出てきますが、それぞれ調べながら進めば余計にストーリーがリアルなものとして感じられると思います。
子供をバイリンガルに育てると言う事
「完璧なバイリンガルに育てて、ほんとにエライわ。バイリンガルって人は簡単に言うけど、全部親がお膳立てしてやっているんだもの。どれだけ手間暇かかることか。時間だってお金だって相当なもんよ。」(68ページ)
海外に家族で住めば、子供はバイリンガルになると思ったら大間違い。そこには色々な落とし穴が潜んでいます。
子供を真のバイリンガルにする為の話、土曜日(休日)にある補修校の話なども出てくるのでお子さんをバイリンガルに育て上げたい方には小説の中にヒントが散りばめられています。
あえて母親の観点でこの小説を読む
海外に赴く際はその国や年の情報、文化や食文化、生活習慣などの情報は今日日、インターネットですぐ情報が入ります。
ただ、心の情報ともなると一筋縄ではいきません。当然ながら一人一人、状況は違いますし必ずしも当てはまるとも言えません。
この小説に出てくるお母さんは、これから海外、特にオーストラリアに住もうとするお母さんには心にどんな事が起こりえるのかの座標になるのではないでしょうか。
もちろん、起きた事に対してとる行動はひとそれぞれですが、予めそういった境遇、「今、まさにそこに起こりうる心の事象」を知っておくだけでも違います。
この小説がお母さんを通して表しているのは、心の移ろいとその心の道しるべ、という風にも感じました。
海外駐在、海外赴任の理想と現実
文化や言語の習得、子供たちはどんどん現地の子供になっていくのに対し自分が英語も文化も友達もなかなか馴染めないし、まどろっこしさにストレスを感じる。そういった事がらを大げさにではなく淡々とした日常から染み出してくる、澱みの様な感覚を上手く描いているなぁと感心しました。
また、私は小学生時代に海外に住んだ体験があるのですが、「なんでこの著者は私の体験談を知っているのだろう?」と不思議に思ったくらい、オーストラリアで言葉ができない日本人の子供の見たり感じたりしたものをリアル感十分に描かれています。
まとめ
海外に住んでいれば日本人のお母さん達にたくさん出会います。仕事上でお会いする事もあるし、ふとしたきっかけで知り合ったご近所さんもいらっしゃいます。
いつも明るく振る舞っているお母さん達。渡航した際には色々なジレンマやストレスを感じていたのかなぁと、普段とは違った視点を持つきっかけにもなった小説でした。
したらね~。